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津地方裁判所四日市支部 平成3年(ワ)164号 判決

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別紙当事者目録記載のとおり。

主文

一  被告は、原告らに対し、それぞれ金二五万円及びこれに対する平成三年九月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その三を原告らの、その余を被告の各負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告らに対し、それぞれ金一二〇万円及びこれに対する平成三年九月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、四日市北郵便局に勤務する原告らが、郵政省が推進する郵政事業の合理化計画等に反対している郵政産業労働組合(以下「郵産労」という。)の組合員であることから、同局の管理職員らから数々の嫌がらせを受けて、労働基本権や人格権を侵害され精神的苦痛を被ったとして、国家賠償法一条に基づき、被告に対し、損害賠償(慰謝料及び弁護士費用)を請求した事案である。

一  争いのない事実等(証拠を摘示した部分は、当該証拠及び弁論の全趣旨によって認定した事実である。)

1  当事者

(一) 原告樋口耕一(以下「原告樋口」という。)は、昭和三九年三月一八日富田郵便局(現四日市北郵便局―以下同じ。)に入局し、昭和六二年五月七日から同局保険課外務員として勤務している。

原告樋口は、入局と同時に全逓信労働組合(以下「全逓」という。)の組合員になった(〈証拠・人証略〉)が、平成元年一月二八日郵産労四日市北支部を結成して、同支部長に就任した。

なお、郵産労は、昭和五七年六月一二日結成された労働組合であり、また、郵産労四日市北支部は、東海地方で初めて結成された郵産労の支部である(〈証拠・人証略〉)。

(二) 原告井口正美(以下「原告井口」という。)は、昭和四二年九月九日富田郵便局に入局し、同局郵便課において郵便集配業務を担当し、平成元年から主任として同局において勤務している。

原告井口は、入局と同時に全逓の組合員になったが、原告樋口らと共に、郵産労四日市北支部を結成して、同支部書記長に就任し、その後、郵産労中央委員になった(〈証拠・人証略〉)。

(三) 原告舘仁(以下「原告舘」という。)は、昭和四〇年四月一日富田郵便局に入局し、同局郵便課において郵便集配業務を担当し、昭和五七年一一月二九日から主任として、平成元年四月二四日から総務主任として同局において勤務している。

原告舘は、入局と同時に全逓の組合員になったが、原告樋口及び同井口と同じく、郵産労四日市北支部を結成して、同支部の会計監査になり、その後、執行委員にもなった(〈証拠・人証略〉)。

2  田中晋(以下「田中局長」という。)は、平成元年七月七日から平成三年六月一七日までの間、局長として、河合富雄(以下「河合課長」という。)は、同期間、総務課長(当初は「庶務会計課長」であったが、平成二年七月一三日から「総務課長」と改称された。)として、北住多喜生(以下「北住課長」という。)は、平成二年七月一三日から平成四年七月二七日までの間、貯金課長として、それぞれ四日市北郵便局に勤務していた(〈人証略〉)。

二  争点

1  不法行為

原告らは、田中局長、河合課長及び北住課長らは、郵政省の推進する郵政事業の合理化計画等に反対して闘っている郵産労を嫌悪し、未だ組合員が少ないうちに同組合を壊滅あるいは弱体化させるため、他の管理職とともに、同組合員を攻撃し、職場から排除すべく、平成元年七月から平成三年九月までの間、原告らに対し、一体的に以下のような不法行為を行なった旨主張し、被告は、以下のとおり反論する。

(一) ビラ配布に対する妨害行為

(1) 原告らの主張

原告らは、郵産労四日市北支部を結成した時から、組合活動として、「四北郵産労ニュース」と題する組合ニュースを月一、二回程度発行し、月一回程度、午前八時ないし八時半の始業前から勤務の五分前までの約三〇分間、庁舎前の国道一号線に沿った歩道上、とりわけ四日市北郵便局の駐車場通用口前に架かる右国道側溝上の局管理の橋の国道側歩道付近で、もっぱら朝出勤してくる職員を対象に右組合ニュース(以下「ビラ」という。)を手渡していた。このビラ配布は、勤務時間外に、庁舎外の公道上において行なわれていたものであり、業務にも支障がなく、配布方法・態様も平穏で、正当な組合の教宣活動であった。ところが、田中局長、河合課長らが四日市北郵便局に赴任してきた平成元年七月から、原告らがビラ配布を開始するや、河合課長を筆頭に、郵産労組合員の数をはるかに超える管理職が原告らに近づき、以下のような妨害行為、嫌がらせを本件提訴時まで毎回行なった。

〈1〉 原告らが平成元年一一月二七日午前七時二〇分ころから始めた四日市北郵便局前公道上でのビラ配布に対し、河合課長は、原告らのもとに近寄ってきて、ビラを見せよと執拗に迫り、原告らのビラ配布を妨害した。続いて、河合課長は、原告舘の持っていたビラを勝手につかみ取ろうとして、同人から、「それはあかんに。」とたしなめられ、原告井口からも「泥棒みたい。」と指摘された。すると、河合課長は、その言葉を暴言だと言い、後日、原告井口を勤務時間中に呼び出して、同人の腕をとり事情聴取書に押印させようとしたり、拒否されるや同人を訓告処分にするなどした。

〈2〉 河合課長は、他の管理職七、八名と共に、平成二年四月九日午前七時二〇分ころから約三〇分間にわたり、前記公道上で、ビラを配布する原告ら及び原告らの支援のために訪れた郵産労他支部組合員に対し、「ビラ配りをやめろ。てめえらみたいな奴がおるから、近畿はあかんのや。いいかげんにしとけよ。なめとったらあかんぞ。」などと怒鳴り、ビラを受け取った者をチェックするなどして、原告らのビラ配布を妨害した。

〈3〉 河合課長及び北住課長は、平成二年一〇月一八日午前七時二〇分ころから約三〇分間にわたり、前記公道上で、原告らがビラを配布している際、他の管理職数名と共に原告らに近づいて、ビラを見せるよう迫り、ビラ配布より営業活動をしろなどと暴言を吐いて原告らの正当な組合活動を侮辱し、大声で「直ちに(ビラ配布を)中止せよ。命令する。くだらんことばかりやりやがって。(原告舘に対し)役職やめよ。」などと騒ぎ立てたほか、ビラを配布している原告らの衣服を引っ張り、更に原告舘を突き飛ばすなどして、原告らに対するビラ配布の妨害、嫌がらせを行なった。

〈4〉 北住課長は、平成三年六月二五日午前七時二〇分ころから約三〇分間にわたり、前記公道上で、原告舘及び同樋口らがビラを配布している際、他の管理職員と共に右原告らに近づいて、原告舘に対し、「その顔なんじゃ、おまん。俺なめとんのか、おい。なめとったらあかんぜ。休みやったら家で寝とれ。」などと因縁をつけ、原告らに対してビラ配布の中止を命じ、自分で自分の名札を落としておきながら、原告樋口に対し、「暴力やないか、おまえ。」などと因縁をつけ、同人がデッチ上げだと抗議するやそれは暴言であるといいがかりをつけ、さらに、原告舘に対し、「おい、舘よ。みんな、君(くん)付けとるけど、俺はお前さんに向かっては君は付けんでな。何故かわかるか。その価値がないのやお前さんには。わかっとるか。」などと同人の尊厳を著しく傷つける侮辱を加え、次に、原告樋口に対し、「興奮しとんでこれ。大分目赤くなってきたやんか。おい、怒これ、怒これ、ほら怒ったらどうやい、おい。俺にどんと向かってこい。ほらもう大分目が赤くなってきた。ほら興奮してきた。」などと挑発したほか、歩道上でビラを配布している原告らを車道まで押し出す等のビラ配布妨害行為、嫌がらせを行なった。

〈5〉 原告らが平成三年七月二四日午前七時二〇分ころから前記公道上で始めたビラ配布に対し、北住課長は、原告樋口に対し、庁舎敷地内に入ったといいがかりをつけ、ビラの内容も確認せずに省の信用失墜だとわめき、同人の前に立ちはだかったり、腕組みした体で迫って同人を車道へ後退させるなどしてビラ配布を妨害した。

(2) 被告の反論

郵政省庁舎管理規程(以下「庁舎管理規程」という。)九条は、「庁舎管理者は、庁舎等において、演説、ビラ等の配布、その他これに類する行為をさせてはならない。」と規定し、庁舎等の秩序維持等適正な管理を行なうため、原則として、庁舎等(「郵政省の組織に属する行政機関において遂行する事業及び行政事務の用に供する建物及び土地並びにこれ等に附帯する工作物その他の施設」をいい、郵便局庁舎はもとより郵便局構内も含む。庁舎管理規程一条)におけるビラ等の配布等の行為を禁じており、例外的に、同条ただし書は、庁舎管理者が、「庁舎等の秩序維持等に支障がないと認める場合に限り、これを許可することができる。」と規定している(郵政省就業規則―以下「就業規則」という。―一三条七項も同様の取扱いを定めている。)。したがって、労働組合等が庁舎等においてビラ等の配布をしようとするときは、個別、事前に庁舎管理者である郵便局長等の許可を受けなければならない。庁舎管理者は、ビラ等の内容が「法令違反にわたるもの、政治的目的を有するもの、郵政省若しくは官職の信用を傷つけるようなもの又は人身攻撃にわたるもの」は、庁舎等の秩序維持等に支障があるものとして、一切許可しないこととされている(郵政省庁舎管理規程の運用について―依命通達―以下「庁舎管理規程運用通達」という。)(ママ)八条関係一項準用)。庁舎管理者は、庁舎等において許可を受けずにビラ等の配布を行なおうとする者に対し、庁舎等における秩序維持等に支障がある行為として、その行為の中止又は庁舎等からの退去を命ずる(庁舎管理規程一二条、庁舎管理規程運用通達一二条関係)。庁舎管理規程違反の行為を行なった者が職員である場合には、庁舎管理者である郵便局長等は、訓令(職務命令)違反として当該職員を問責することができる(就業規則五条二項、一一四条)。さらに、労働組合ないし労働者の職場外での情報宣伝活動であっても、地域住民の郵便局に対する信用を失墜させ、あるいは郵便局の利用者に不安動揺を生じさせる等、郵便局の業務運営や利益を不当に侵害するもので、企業としての円滑な運営に支障を来すおそれがある場合、その管理者は、企業秩序の維持確保などのため、注意・指導・懲戒等相応の措置を採ることができると解すべきである。

しかるに、原告らは、(a) 許可を受けずに庁舎敷地内に入り込んでビラを配布し、(b) 事実と相反し、事実を歪曲、誇張した、郵政事業の信用失墜を招く内容のビラを配布し、(c) 年末のアルバイトの中心となる高校生が通学する時間帯に、高校生の通学路となっている郵便局前でビラ配布をするなどアルバイト募集に悪影響を与えるような態様のビラ配布を行ない、(d) 地域の連合自治会長から、通行の邪魔であり、騒音公害になるもので、地域住民の迷惑になる旨注意を受けるという事態にまでなり、郵便局の信用を失墜させたほか、(e) 勤務時間外にもかかわらず郵便事務服(官服)を着用したままビラを配布し(就業規則二五条、郵便事業特別会計規程第九編「被服」一〇条二項違反)、(f) ビラ配布中に管理職に対して暴言を吐くなどの非違行為をしたため、これらの点について、管理職らが原告らに対し法令等に基づき注意・指導をしたにすぎない。

(二) 給与の貯金口座振込みの強要とこれを口実とした降格・退職の強要

(1) 原告らの主張

給与を直接労働者の預(貯)金口座に振込む方法で支払うこと(以下「給与振込み」という。)が、労働基準法に定める通貨払いの原則に違反しないためには、それが労働者の完全に自由な意思に基づくものであることが必要とされており、昭和六〇年に制定された給与口座振込制度に関し、郵政省と郵産労本部との間で協約を締結する際にも、口頭了解事項の中で、郵政省は、「給与預入れに関しては、あくまでも本人の希望を尊重し、希望しない者に対して強要しないよう現場管理者を十分指導していく。」との確認を行なっていたにもかかわらず、四日市北郵便局においては、河合課長及び北住課長を中心として、原告らに対し、以下のような給与振込み(郵便貯金口座を利用したもの―以下同じ―。)の強要、嫌がらせを、平成二年四月ころから平成三年二月ころまで、各原告らが給料の受取りに行く度に多数回にわたって行なった。

〈1〉 平成二年六月三〇日午後一時三〇分ころから、河合課長は、原告井口がボーナスを受領するために総務課を訪れた際、同人が「あんた」という言葉を使ったことを捉えて、ものの言い方が悪いと言いがかりをつけ、「あんた部下やろ。あくまでもそやろ。悔しかったら課長や課長代理になってみよ。」などとからかい、言葉遣いが悪いとして管理者から「暴言」と認定された場合は直ちに処分を予定していると述べて、処分という脅しの下に、給与振込みを強要した。

〈2〉 平成二年七月一八日午後一時三〇分ころから四二分ころまでの間、河合課長は、他の管理者らと共に、原告舘及び同井口らが給与を受け取りに来るのを待ち受け、右原告らが給与を受け取った後、数人で右原告らを取り囲み、原告舘に対し、「給与振込みはどうした。郵政省から給料もらっているのだから自分とこの商品をかわいがれ。できないなら総務主任を辞めろ。降格願いを書け。」などと繰り返し申し向け、給与振込みを強要した。

〈3〉 平成二年一一月一六日午後一時三〇分ころ(ママ)ころから四八分ころまでの間、田中局長、河合課長及び北住課長らは、給与の受け取りに来た原告舘、同井口らを取り囲み、口々に、給与振込みを強要した。とりわけ原告舘に対し、河合課長は、「役職者やろ。」「返事をしろ。」「舘仁やろ。」といった言葉を執拗に繰り返したり、給与振込みをしないなら降格願いを出せと強要し、田中局長も、「一ぺんおまえビデオ撮って奥さんに見せたろか。」などと言っていじめに加担し、北住課長も、「給与振込みをしないということは郵政職員ではないということだ。」と繰り返し言いつのった。

〈4〉 平成二年一二月一〇日午後一時三〇分ころから四五分ころまでの間、河合課長及び北住課長らは、総務課に年末一時金を受け取りに来た原告舘、同井口らを待ち構え、執拗に給与振込みを強要した。とりわけ原告舘に対し、北住課長は、「年は俺のが下やと思うで。年下にこんなこと言われて腹立たんか。四北来て五か月やと思ってなめとったらあかんぞ」などと挑発・侮辱し、また、河合課長も、原告舘が給与を受け取りに来たことは明らかであるにもかかわらず、「おめえがくれと言っとらへんがや。何しに来たんやわからんがや。何しに来た。黙っとるだけやないか。黙ってぼけっと立っとるおめえ小学生以下やがや」などと侮辱し、わかりきったことを答えさせようと強要した。そして、原告舘が、年末一時金を受け取り、金額を確認している際、同人に対し、北住課長は、「はよ数えやんか、はよ。」「何時までやっとんのや。」などと罵倒し、河合課長も、「五、八、一〇、一二、一三、一八、一二、一六」とデタラメな数を数えて金額確認を妨害し、「何しとんのや、おめえ。」「そんな数え方しとったらお客さんに笑われるぜ。」などと言って嫌がらせをした上、確認が終わると、給与振込用紙を差し出してその記載を要求し、これを拒絶されるや、「そんなら総務主任辞めてしまえ。」「なめとったらあかんぞ。」などと言い放ち、さらに、河合課長が、原告舘の印鑑を持ち上げて給与預入用紙に押すそぶりをしたため、同人が、「人の印鑑返さんか。」と言ったところ、河合課長は、それを暴言であると述べた。

その後、同月一一日午後二時ころ、原告舘は、河合課長に対し、「人の印鑑返せ。」と言ったことについて、河合課長から事情聴取を受け、始末書を提出するよう強要された。

さらに、同月一三日午後一時五〇分ころ、河合課長は、原告舘に対し、同月一一日の事情聴取の結果を記載した用紙を示して、その用紙への署名・押印を強要し、これを拒否するや、そのことに対して加重処分を行なうと述べ、さらに、始末書を提出していないことについても詰問し、原告舘が、やはりこれについても拒否すると、河合課長は、加重処分を行なうと述べた上、「そんな総務主任要らん。降格しなさい。郵政省も辞めよ。お前みたいなもの居ってもらわんでもええ。君は職員としても役職者としても何の役にも立っとらん。」などと述べて、嫌がらせの上、降格・退職の強要を行なった。

〈5〉 平成二年一二月一八日午後五時ころ、原告樋口は、河合課長及び北住課長らに呼び出され、「郵政省の職員であれば、郵政省の商品である給与の自動振込みを利用するのは当然だ。利用できない職員は局を辞めなさい。」などと給与振込みを強要された上、原告樋口が当時歯が抜けたばかりであったことから無意識に口内を動かしていたところ、河合課長は、突然、原告樋口が事情聴取中に口笛を吹いたと騒ぎ立て、同人がこれを否定するにもかかわらず、同月二〇日午前九時三〇分ころ、始末書の提出を強要し、さらに引き続いて、同人が仕事を開始した際、傍らで同人に因縁をつけるなどして仕事を妨害し、嫌がらせを続けた。

このようにして、原告らは、毎月の給料日毎に右のような強要や嫌がらせを受け、精神的に疲労したことから、平成三年二月、その意思に反してやむなく給与振込みを行わざるを得なくなった。

(2) 被告の反論

労働基準法二四条は、賃金は、原則として、通貨で、直接労働者にその全額を支払わなければならない旨規定しているが、同法施行規則七条の二により、労働者の同意を得た場合には、当該労働者の預貯金への振込みによることができるとされている。そこで、郵政省においても、就業規則一〇二条の二により、給与の口座振込みの制度を定め、部内各労働組合の中央本部と、「給与の口座振込みに関する協約」をそれぞれ締結し、また、各郵便局においても、各労働組合支部との間で、「給与の口座振込みに関する協定」をそれぞれ締結し、給与振込みの取扱いを行なっている。

なお、右協約等については、口座振込みの開始に当たり、職員の同意を得ることを要件としているものの、右同意を得るに当たって、職員を説得し、給与の口座振込みを利用するように勧奨することについてまで禁止する趣旨のものではなく、むしろ、説得・勧奨は必要であり、当然許容されるべきものといわねばならない。

ことに、民間企業に給与振込みサービスの利用勧奨を行ない、その普及の促進に力を注いでいる為替貯金事業の経営主体という立場からすれば、原告らに対する給与振込み加入の勧奨は、事業経営上当然の要請であった。また、原告らに対する実際の利用勧奨に当たっては、原告ら職員に郵政事業の使命やその置かれた立場を理解してもらい、事業に協力してもらうことが、全員一丸となっての活力ある職場づくりを行なっていくために重要なことであるとの認識のもと、管理者は粘り強く勧奨したものであり、これら管理者の行為は、管理者としての部下指導・職員育成の一環としてなされたものである。一方、原告らは、日常的にCD(現金自動支払機)を利用しており、給与振込みを利用しているのと同じ状態であったのに、管理者の利用勧奨に対して、一顧だにしようとせず、かえって、管理者を挑発する態度をとるなど、いたずらに反抗的態度を示すばかりであったため、管理者としては、時として厳しい口調をもって注意・指導を行なわざるを得なかったものである。

(三) 国際ボランティア貯金加入の強要とこれを口実とした降格・退職の強要

(1) 原告らの主張

郵政省が平成三年一月四日から実施した「国際ボランティア貯金」(以下「ボランティア貯金」という。)について、郵政省側は、職員にノルマを課したり加入を強制しない旨約束し、郵政省と郵産労本部との間でも同旨の確認を行なっていた。そして、郵産労では加入するしないは各組合員個人の意思に委ねることにしていたところ、原告らは、これがボランティアである以上、本人の任意の意思に基づくものであること、ボランティア団体が明確にされていないこと等の理由により、右貯金への加入を拒否した。しかるに、河合課長や北住課長らは、原告らに対し、以下のようなボランティア貯金加入の強要、嫌がらせを、平成三年一月一〇日から同年二月初めにかけて連日執拗に行なった。

〈1〉 原告樋口関係

平成三年一月一八日午後四時三〇分ころ、北住課長は、原告樋口に対し、「職員やったら自社商品を利用するのは当たり前や。いやなら退職せよ。」などと詰め寄り、ボランティア貯金への加入を強要した。

同年二月六日北住課長は、原告樋口が、同人の妻がボランティア貯金に加入しているので一家で一つ加入していれば良いだろうと考え、加入を済ませた旨伝えていたことを取り上げ、同人を図書室に呼び出し嘘つき呼ばわりして難詰した。さらに、保険課事務室に仕事で戻った原告樋口に対し、河合課長が追いかけてきて、「樋口耕一の嘘つき。」などと言いながらその胸倉をつかみ何度も押すなどの暴行を行なった。同日、原告樋口が帰る際にも河合課長や北住課長は庁舎外まで追いかけてきて、「樋口耕一の嘘つき。」と連呼した。

〈2〉 原告井口関係

平成三年一月二九日午前八時二〇分ころ、原告井口が配達区分の仕事をしている最中に、河合課長は、他の管理職二名と共に、原告井口を取り囲み、ボランティア貯金への加入を強要した。

同月三〇日午前八時二〇分ころ、河合課長は、他の管理職数名と共に原告井口を取り囲み、配達区分作業中の原告井口の郵便物を取り上げ、同人の両肩を押さえて自分の方に向かせ、ボランティア貯金への加入を強要した。

同月三一日、原告井口がボランティア貯金に加入しないことについて、北住課長は、同人に対し、「頭おかしいんちゃうか。」「おまえわしより大きいやないか。大きい体して何を考えとんのや。」などと罵詈雑言を浴びせかけた。

〈3〉 原告舘関係

平成三年一月一一日河合課長と北住課長は、原告舘に対し、「ボランティア貯金に加入しろ。加入できないのなら総務主任を辞めろ。職員も辞めろ。」などと迫り、同日以降毎日執拗にボランティア貯金加入の強要を行なった。

同月一八日午後一時三〇分ころ、北住課長は、原告舘に対し、「ボランティアを何故しない。お前がいると職場が暗くなるからボランティアに入って明るくせよ。」などと侮辱的な言葉を浴びせかけ、ボランティア貯金への加入を強要した。

(2) 被告の反論

ボランティア貯金は、国民の国際社会への貢献に対する意識が高まる中、手軽にしかも安心して海外援助に参加できる手段を提供する制度として、大蔵省、外務省、自治省と折衝の上、国会における審議・議決を経て成立した「郵便貯金の利子の民間海外援助事業に対する寄付の委託に関する法律」(平成二年法律第七二号)に基づき創設されたものである。

右のような経過を経て創設されたボランティア貯金は、極めて公共性の高い郵政事業において、正にその公共的な役割を果たすとともに、郵政事業に対する企業イメージのアップに貢献し、もって、事業の健全経営に資する新規施策であることから、その創設当時から、郵政省を挙げて普及に取り組んでいる。

もとより、ボランティア貯金は、郵便貯金利用者が、善意に基づき、任意に加入するものであるが、そうであるからこそ、まず、職員自らが利用して、ボランティア貯金の制度、内容を理解した上で、その普及促進に取り組んで行く必要がある。そこで、管理者は、個々の職員に対し、加入勧奨を行なっているのであって、積極的に加入勧奨を行なうことをもって、非難されるいわれは全くないのである。

原告らに対する北住課長らのボランティア貯金加入の勧奨も、これが新規施策であり、施策の推進について管理者として職場のムードを盛り上げ、局一丸となって普及促進に取り組むための強い姿勢の表れであって、管理者としての熱意から、粘り強く説得し、勧奨したものである。一方、原告らは、この勧奨に対しことごとく反発を繰り返したものであり、勧奨の過程で、原告らの態度に即応し多少厳しい物言いがあったとしても、これをもって強要などに該当するものでないことはいうまでもなく、もとより、暴力行為あるいは嫌がらせ等の行為を行なった事実もない。

ちなみに、原告らは、給与振込みへの加入同様、平成三年二月中旬ころ申し合わせたように一斉にボランティア貯金に加入しているが、このことは、原告らが、加入しないことをもって管理者への反発を目的とした一環として位置づけていたことをうかがわせるに足る事実である。

(四) 挨拶をしないことを口実とした降格・退職の強要や嫌がらせ

(原告らの主張)

(1) 四日市北郵便局においては、朝、作業開始後、管理者が両側に立って見守る中で、局長が挨拶をしながら巡回するということが行なわれていた。

その際、河合課長は、以下のとおり、原告舘が作業に従事している最中に、同人に近づき、執拗に挨拶を迫って、作業の妨害を行ない、さらに、原告舘が挨拶をしないことを口実に降格あるいは退職を強要する発言を繰り返し、嫌がらせを行なった。

〈1〉 平成二年九月一八日午前八時一八分から二八分までの間、河合課長は、他の管理者数名を連れて区分作業中の原告舘に近づき、原告舘がこれに構わず作業を続けていると、一方的に原告舘を誹謗し、かつ、執拗に退職を強要した。

〈2〉 平成二年九月一九日午前八時一八分ころ、河合課長は、同様に作業中の原告舘に近づき、原告舘を誹謗し、執拗に退職を迫った。

〈3〉 平成二年一〇月三日午前八時二〇分ころ、河合課長は、同様に、原告舘に対し、直ちに退職するよう迫った。

〈4〉 平成二年一〇月六日午前八時二〇分ころ、河合課長は、原告舘に対して、そのような投書は現に存在しないにもかかわらず、お客さんから原告舘は挨拶をしないという投書が来ていると執拗に嘘を述べた上、退職を強要した。

(2) このような河合課長の原告舘に対する攻撃は、右日時にのみ行なわれたわけではなく、毎日のように繰り返されていた。

なお、原告舘が挨拶をしなかったのは、河合課長が、給与振込みやボランティア貯金あるいはビラ配布などあらゆる事柄を口実に頻繁かつ執拗に原告舘を攻撃し、退職や降格を強要したり、何かにつけて原告舘を侮辱するような発言を行なっていたため、挨拶を返してもそれだけでは済まず、何か話をすれば、そのことについてさらに難癖をつけられると思い、挑発に対してできるだけ相手にしないことが得策と考えた結果、挨拶を返さないという行動をとっていたのであって、原告舘が挨拶を返さない原因は河合課長をはじめとする管理者側の対応にある。

(五) ロッカー検査を口実とした嫌がらせ

(1) 原告らの主張

河合課長らは、平成三年五月二二日保険課外務員の私物用ロッカーの検査を行なった。

このロッカー検査は、原告樋口が入局して以来二七年の間、一度も実施されたことがなかった変則的なもので、しかも、他の職員の検査は極めて簡単に済ませたのに対し、原告樋口に対する検査だけは入念に行ない、ロッカー内の物を引っ張りだし、ロッカー内に小銭やソフトボールを見つけるや局の物ではないかとの嫌疑をかけ、かつ、ロッカーの中を荒らしたい放題荒らしてそのまま放置する等、原告樋口に対してロッカー検査を口実に嫌がらせを行なった。

(2) 被告の反論

原告らが主張するロッカー検査は、平成三年五月二〇日四日市北郵便局に、東海郵政局貯金部長名で、「部内犯罪の発生」と題する同月一八日付けの公用私信が届いたので、これを契機として、四日市北郵便局においても、部内犯罪を発生させることのないよう防犯に対する取組みを一層強化することとし、田中局長及び河合課長は、同局での防犯対策を検討した結果、前年一〇月三〇日に貯金課外務員を対象にしたロッカー検査の際に、ロッカーの中から認印が数本発見されていたこともあって、これが職員による犯罪につながる可能性も考えられることから、貯金課と同様営業担当課である保険課についても、平成三年五月二二日朝、外務職員を対象にロッカー検査を含めた防犯検査を実施したものである。

そして、右ロッカー検査に当たっては、職員のプライバシー保護の見地からも、本人の立会いを得て実施したものであり、また、職員が犯罪を犯さないよう防犯のための諸措置を講ずるのは管理者の重要な責務でもあることに照らせば、右検査の実施をもって何ら非難されるいわれはなく、さらに、管理者による嫌がらせ等原告ら主張のような事実もない。

2  被告の責任

(原告らの主張)

河合課長、北住課長及び田中局長らの右各行為は、公務員が職務を行なうにつき(この点は当事者間に争いがない)、故意に、かつ、違法に、原告らに損害を加えたものであるから、被告は、国家賠償法一条一項により、原告らに賠償する責任がある。

3  損害

(原告らの主張)

原告らは、河合課長、北住課長及び田中局長らの、二年余の長期にわたる、組織的、執拗かつ悪質な前記不法行為によって、平穏な労働生活や正当な組合活動をする権利及び人格権を著しく侵害されており、原告らが被った精神的苦痛は極めて大きく、その損害はそれぞれ金一〇〇万円を下らない。

弁護士費用は本件の重大性及び困難性等を考慮すると原告一名につき金二〇万円が相当である。

よって、原告らは、右各金員及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成三年九月一九日―記録上明らかである―。)から、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三争点に対する判断

一  不法行為

1  ビラ配布関係

(一) 事実関係

(1) 平成元年一一月二七日の事実

(証拠・人証略)の結果によれば、河合課長らは、同日午前七時二〇分ころから四日市北郵便局通用門前の歩道上でビラを配布していた原告らに対し、ビラを見せるよう繰り返し求め、河合課長が、原告舘の持っていたビラをつかもうとして、原告井口から「泥棒みたいなことはやめよ。」と言われると、その言葉を暴言だと何度も言いつのり、さらに、「中身が違うようなことを書くな。ビラ配りをやめろ。」と繰り返し言い向けたこと、同日、河合課長は原告井口を図書室に呼び出し、同人が「泥棒みたい。」と言ったことについて事情聴取したこと、翌二八日、河合課長は再び原告井口を図書室に呼び出し、事情聴取書の内容の確認と署名押印を求め、同人がこれを拒否すると、腕組みしていた同人の腕をつかんだこと、同年一二月、原告井口は「泥棒みたい。」と言ったことを理由に訓告処分を受けたこと等の事実が認められる。

(2) 平成二年四月九日の事実

(証拠・人証略)の結果によれば、河合課長は、他の管理職数名と共に、同日午前七時二〇分ころから、四日市北郵便局前公道上でビラを配布していた原告らの応援に来ていた近畿地方の郵産労支部組合員との間で、口論となったことが認められるが、原告樋口と同井口はその場に居合わせず、また、原告舘がその場にいたことを認めるに足りる証拠もない。

(3) 平成二年一〇月一八日の事実

(証拠・人証略)の結果によれば、河合課長は、他の管理職数名と共に、同日午前七時二〇分ころから約三〇分間、四日市北郵便局前歩道上でビラを配布していた原告らにつきまとい、同人らに対し、「何やんのやて。何やそれ見してみよ。見せられんようなもん配るんか。」などと繰り返し揶揄し、「仕事もしっかりやらずに、営業も何もやらずに、年賀一枚でも売ってきたか。それもよう売ってこずに。何くだらんことばかりやりやがって。中で営業の勉強してこい。そのほうが総務主任として適当や。それがでけへんのやったら総務主任辞めよ。」などと言い向け、ビラに服務改悪と書かれているのを見て、「郵政省のやること何が改悪や。こんなデタラメなこと書くな。直ちに中止せよ。命令する。このことが年末非常勤確保にどんなに悪いイメージ与えるかわかっとるか。」などと言ったほか、芦田上席郵便課長代理が、事務服を着ていた原告舘に対し、袖口をつかんで、「時間外に官服着たらあかんやないか。はよ脱げ。」などと言い向け、河合課長が原告舘の体を押すなどしたことが認められる。

(4) 平成三年六月二五日の事実

(証拠・人証略)の結果によれば、北住課長は、他の管理職数名と共に、同日午前七時二〇分ころから、四日市北郵便局前歩道上でビラを配布している原告らに近づき、原告舘に対し、「その顔なんじゃ、おまん。俺なめとんのか、おい。なめとったらあかんぜ。休みやったら家で寝とれ。悔しかったらもの言うてみい。」などとののしり、原告らに対し、繰り返しビラ配布の中止を命じ、自己のネームプレートが衣服からはずれて落ちたことについて、「暴力やないか、おい。」などと言ったり、「たわけばっかりやなあ、おまえら。(たわけは)おまえらにふさわしい言葉や。」「今から一〇時半までやるか。付き合ったるわ。」「ビラも受け取ってくれへんやないか。止めときい、もう。立っとるだけやぜ。」などと言い、原告舘に対し、「貯金課長をなめとんのか、おまえ。おまえ今日休みやったのう。何時間でも付き合ったるぜ。俺、もの言ってもらわんと後が出てこんのやわ。何でもええで一回言ってみい。一回自分の思ったこと言ってみよ。小学生でも言うぜ、当てられたら。」「おい、舘よ。みんな、君(くん)付けとるけど、俺はお前さんに向かっては君は付けんでな。何故かわかるか。その価値がないのやお前さんには。わかっとるか。」などと言い向け、原告樋口に対し、「興奮しとんでこれ。大分目赤なってきたやんか。おい、怒れ、怒れ、ほら怒ったらどうや、おい。俺にどんと向かってこい。ほらもう大分目が赤くなってきた。ほら興奮してきた。言いたいことがあったら言え早よ。」などと言い、その後も、「どれだけまいたんや。かなり残っとるぞ。」「五人くらいしかまいとらんの。」「五枚もまけたらえらいこっちゃなあ。」「(原告舘が「今度六枚まく。」と言ったことに対し、)喋るやないか。計算できるやないか。」「おらまあ五の上は七かしらんと思ったわ。」「舘と樋口よう間違えるんやわ。顔もように似とるしさなあ。ひねくれた根性もよう似とんのやわ。」「字が読めんのやわ。文章がまずいで分からんのやわ。小学生以下なんやわ。」「これからの郵政に不満あんのやったらいくらでも代わりおるんやぜ。」「おまえでしか四日市北はあかんちゅうのやないんやぜ。どや就職情報もってきたろか。」など、その他粗野な言葉遣いでもって様々に揶揄し挑発しつつ原告らにつきまとったほか、原告樋口や原告舘の体を押すなどしたことが認められる。

(5) 平成三年七月二四日の事実

(証拠・人証略)の結果によれば、北住課長は、他の管理職と共に、同日午前七時二〇分ころから、四日市北郵便局前歩道上でビラを配布している原告らに近づき、同人らに対し、「(ビラの内容が)郵政省の信用失墜だ。」「(庁舎敷地内に)入った。」「何じゃ、その言い方は。それが上司に向かって言う言葉か。」など、様々に言い向け、同人らの前に立ちはだかったり、腕組みした体で迫って、原告樋口らを車道の方へ後退させるなどしたことが認められる。

(二) 以上のとおり(ただし、〈2〉の平成二年四月九日の事実は除く。)、河合課長や北住課長らは、勤務時間外に庁舎敷地外でビラを配布していた原告らに対し、その前に立ちはだかったり、体を近づけて迫ったり押すなどし、あるいは、ビラを見せろと迫り、ビラ配布の中止を命じたり、その他、低俗な内容の様々な侮辱的言辞をろうして揶揄し、挑発し、因縁をつけるなどして、原告らの組合活動としてのビラ配布行為を不当に妨害したことが認められる。

(三) 被告の反論について

(1) 被告は、原告らが許可を受けずに庁舎敷地内に入り込んでビラを配布したため、管理職が注意・指導したものである旨主張するが、原告らは、ビラ配布を主に四日市北郵便局前の歩道(公道)上で行なっていたのであって、庁舎敷地内に立ち入ったことはほとんどなく、立ち入ったとしても、一時的に局の管理する橋に数歩足を踏み入れた程度にすぎないことが認められ、これが形の上で庁舎管理規定に違反する行為であるとしても、極めて軽微な違反行為と言うべく、もとより郵便局の秩序維持等に支障をきたすような行為であったとは認められず、そうすると、右原告らの行為は、前記河合課長ら管理職のビラ配布妨害行為の不当性を阻却するものとはいえない。

(2) また、被告は、原告らが、事実と相反し、事実を歪曲・誇張した、郵政事業の信用失墜を招く内容のビラを配布したため、管理職が注意・指導したものである旨主張するが、そもそも、前掲各証拠によれば、河合課長や北住課長らは、ビラの内容を見る前から既にビラ配布を妨害していたこともたびたびあったことが認められるのであるから、右被告の主張は理由がない。

(3) さらに、被告は、原告らが、年末のアルバイトの中心となる高校生が通学する時間帯に、高校生の通学路となっている郵便局前でビラ配布をするなどアルバイト募集に悪影響を与えるような態様のビラ配布を行なったため、管理職が注意・指導した旨主張するが、そもそも、月に一回程度、三〇分程度の、主として出勤してくる郵便局職員を対象としたビラ配布が、高校生のアルバイト募集に悪影響を与えるとは解されない上、ビラを高校生に配付した事実を認めるべき証拠もないから、右被告の主張は理由がない。

(4) 被告は、原告らのビラ配布について、地域の連合自治会長から、通行の邪魔であり、騒音公害になるもので、地域住民の迷惑になる旨注意を受けるという事態にまでなり、郵便局の信用を失墜させたため、管理職が注意・指導した旨も主張する。しかしながら、原告らのビラ配布行為自体が、地域住民の通行を妨げ、騒音をまきちらし、迷惑を与えるようなものであったと認めるに足りる証拠はないから、右被告の主張も理由がないといわねばならない。

(5) 被告は、原告らが、勤務時間外にもかかわらず官服を着用したままビラを配布したため、管理職が注意・指導した旨も主張する。しかし、これまで職員が官服を着用して通勤したことで注意・指導を受けた例はなく、事実上黙認されていたことに照らすと、原告らが官服を着用してビラを配ったことは、それが規律違反に該当するとしても、その程度は軽微であり、前記河合課長ら管理職の前記ビラ配布妨害行為の不当性を阻却するものとは言えない。

(6) 被告は、原告らが、ビラ配布中に管理職に対して暴言を吐くなどの非違行為をしたため、注意・指導をした旨も主張するが、仮に、原告らに、管理職に対する暴言に値する言辞があったとしても、河合課長や北住課長らの前記認定の粗野・低俗な言辞による原告らに対する執拗な侮辱や挑発行為は、職員の非違行為に対する管理職としての注意・指導の限度を逸脱していることは明らかであり、したがって、右被告の主張も理由がない。

2  給与振込み関係

(一) 事実関係

(1) 平成二年六月三〇日の事実

(証拠・人証略)の結果によれば、河合課長は、同日午後一時三〇分ころから、ボーナスを受領するために総務課を訪れた原告井口に対し、「郵政職員なら自分とこの商品を活用するのは当たり前だ。あんた郵政職員やろ。郵政職員でなかったら、あんた辞めてもらわなんで。」などと繰り返し言い向け、原告井口が、「給与振込みは本人の自由の問題だ。」と答えたにもかかわらず、その後も、同人が「あんたら」という言葉を使ったことを捉えて、傍らにいた伊藤労務担当課長代理が、「あんたらて誰に言うとんのや。ものの言い方考えよ。」と非難し、「わしからあんたらて言うのは別にええ。」と言い向けたのに合わせて、「あんた、部下やろ。悔しかったら課長や課長代理になってみよ。なれへんやろ。」などと侮辱し、「言葉遣いに気をつけるのは当たり前や。間違ったらあくまで暴言やで。すぐに処分する。」などと威迫し、さらに、原告井口がボーナスを受領してその場を去ろうとすると、その後を追い、原告井口が、「(給与振込みを)今のところやる気持ちはない。」と答えているのに対して、「いつまで待つんや。ええか、考えとけ、」などと言ってつきまとったことが認められる。

(2) 平成二年七月一八日の事実

(証拠・人証略)の結果によれば、河合課長は、同日午後一時三〇分ころから四二分ころまでの間、総務課へ給与を受け取りに来た原告舘に対し、「給与振込みはどうした。この前しなさいとおれ言っといたやろが。」と迫り、原告舘が、「給振りはできない。」と答えているに対して、「どこから給料もらっとるんやおめえは。郵政省やろ。郵政省やったら自分とこの商品かわいがるの当たり前やないか。おまえのためにどれだけ時間かかっとるか分かっとるかおめえ。おう。何回言った、おめえに。それでも総務主任か、おめえ。総務主任辞めてしまえ。」「ふざけとったらあかんぜ。何回も何回も子供みたいにおんなじこと言わして。ええかげんにせなあかんぜ、おめえ。それでできんやったら総務主任辞めなさい。降格願い書け、おめえ。何だあ、その顔は、おう。」などと繰り返し言い向けたことが認められる。

(3) 平成二年一一月一六日の事実

(証拠・人証略)の結果によれば、河合課長、北住課長、田中局長及び藤井総務課長代理らは、同日午後一時三〇分ころから四八分ころまでの間、総務課へ給与を受け取りに来た原告井口に対し、河合課長において、「給料あるかよ、おめいら。」と言い向け、同人が受け取った給与の金額を確認しようとすると、そばから藤井総務課長代理が、「そんなとこ見やんでも、金額は封筒の表に書いてあるやないか。ほしたらありがとうございましたでええやないか。」などと、同人が給与振込みはしないことへの当てつけを言い、また、同じく給与を受け取りに来た原告舘に対し、河合課長が、「役職者やろ。」と続けて四、五度も言い向け、「返事をしろ。役職者やろ言っとるのに。返事くらいせんか。返事もできんのやったら、おめえ給料なんかもらう必要ねえやないか。誰やおめえ、舘仁やろ。」「役職者としての勤めを果たせ。(給料振込みが)できんのやったらおめえ役職者辞めやええやないか。」などと口汚くののしるなどして、同原告に給与振込みをするよう執拗に迫り、田中局長も、「一ぺんおまえ(こんな場面を)ビデオ撮って奥さんに見せたろか。」などと揶揄し、北住課長も、「給振りせんということは郵政職員やないということやな。」などと嫌がらせを言ったことが認められる。

(4) 平成二年一二月一〇日、一一日、一三日の事実

(証拠・人証略)の結果によれば、平成二年一二月一〇日午後一時三〇分ころから四五分ころまでの間、総務課にボーナスを受け取りに来た原告舘に対し、同人が給与振込みをしていないことを非難して、北住課長は、「職員ならやるのが当然や。しかも総務主任やないか。何でやれやんのや。郵政省に不満があるんやったらいくらでも代わりおるで。」などと言い向けて給与振込みをするよう迫り、「年は俺のが下やと思うで。年下にこんなこと言われて腹立たんか。四北来て五か月やと思ってなめとったらあかんぞ。」「腹立つやろ。いつでも相手になったる。」「われみたいなやつになめられてたまるか。」などと挑発し、また、河合課長も、原告舘に直ちにボーナスを渡そうとせず、「くれ言ったか。言っとらんがや、くれえって。」「何しに来たんやわからんがや。何しに来た。黙っとるだけやないか。黙ってぼけっと立っとるおめえ小学生以下やがや。」「何で(給与振込み)できんのや。できんのやったら総務主任辞めよ。」などと揶揄し、そして、そのあとボーナスを受け取って金額を確認している原告舘に対し、北住課長は、「はよ数えやんか、はよ。」「そんな数え方しとったらお客さんに笑われるぜ。」「いつまでやっとんのや。」などとからかい、河合課長も、「何しとんのや、おめえ。一五、一六、一八。」「今一二枚やったぞ、一、六、八、五、四、三、一、八、二。」などとデタラメな数字を言い向けるなどして原告舘が紙幣を数えるのを妨害し、さらに、右課長らは、金額の確認を終えた原告舘に対し、給与預入申込用紙を差し出してそれに記入押印するよう求め、特に、河合課長は、原告舘の印鑑を持ち上げて右用紙に押すそぶりをし、これに対して原告舘が、「人の印鑑返さんか。」と言ったところ、河合課長は、それを暴言だと述べ、その後も、北住課長は、原告舘に対し、「総務主任辞めてしまえ。」と繰り返し言い向けたことが認められる。

そして、原告舘本人尋問の結果によれば、同月一一日、原告舘は、郵便予備室へ呼び出され、河合課長に対して「人の印鑑返さんか。」と言ったことについて、河合課長らから事情聴取を受け、同月一三日までに始末書を提出するよう求められたことが認められる。

さらに、(証拠・人証略)の結果によれば、同月一三日午後一時五〇分ころから二時五分ころまでの間、河合課長は、二階男子休憩室において、原告舘に対し、同月一一日に事情聴取した内容を記載した用紙を示して、その用紙への署名・押印を求め、同人がこれを拒否すると、それを理由に加重処分を行なうと述べ、さらに、同人が始末書を提出していないことについても質問し、同人が、書く必要がないと答えるや、それについても加重処分を行なうと述べた上、「そんな総務主任はいらん。ただちに降格しなさい。郵政省も辞めなさい。お前みたいなものおってもらわんでもええ。君の歳になってどこも使ってくれるようなところもないわ。君は役職者として何んも役にも立っとらん。」などと侮辱的言辞を言い向けたことが認められる。

(5) 平成二年一二月一八日、二〇日の事実

(証拠・人証略)の結果によれば、平成二年一二月一八日午後五時五五分ころ、河合課長と北住課長らは、原告樋口を郵便予備室に呼び出して、かねてから給与振込みをしない旨表明している同人に対し、「給与振込みができやんような職員はいらん。辞めよ。」などと言い、さらに、河合課長は、その際原告樋口が口笛を吹いたわけでもないのに、「樋口耕一が口笛を吹いた。現認。」と言って、同月二〇日、再び同人を呼び出し、口笛を吹いたことについて始末書を書いて提出するよう求めて嫌がらせをし、同人がこれを拒否して仕事に戻ると、作業中の同人の横に来て、「字が下手やな。手が震えとるやないか。」などとからかい、これに対し原告樋口が、「仕事の邪魔はやめてください。」などと言う押し問答を繰り返したりしたことが認められる。

(二) 以上のとおり、河合課長及び北住課長ら管理職は、職員の自発的な同意が要件とされている給与振込みの利用について、原告らがこれを利用しない旨明確に意思表示をしているにもかかわらず、原告らに対し、給与振込みをやれと何度も繰り返し求め、できないなら降格ないし退職しろなどと言いつのるなどし、その他、給与振込みをするよう求めて、様々な威圧的、侮辱的な言辞を浴びせかけ、些細なことを非違行為ととらえて始末書を書けと迫り、あるいは児戯に類した言動でもって、給与の金額確認の妨害をするなどの嫌がらせをしていることが認められる。そうすると、原告らが、給与振込みをしない合理的な理由を管理職に対して積極的に説明しようとせず、また、給与振込みが郵政省の重要な事業施策であり、原告らに対し、管理職としてその施策の趣旨を説明し、加入の勧奨をする必要があった(人証略)としても、河合課長ら管理職の原告らに対する前記各言動は、右の説明・勧奨の程度を明らかに逸脱した、不当な行為といわねばならない。

そして、河合課長や北住課長らが、原告らに対し、降格あるいは退職しろと発言したことについては、仮に、同課長らが、真意で、原告らに対し、それを求めたものではないとしても、管理職の立場にある者の言辞としては(しかも、前記のとおり低俗かつ粗野な口調でもって繰り返しこれを言いつのるなどということは。)、甚だ不穏当であって、これによって原告らが、その人格を傷つけられたと受けとめたとしてもやむを得ないものと認められる。

なお、原告らは、平成三年二月から給与振込みを始めている(当事者間に争いがない。)が、その事実は、右の認定を左右するものではない。

3  国際ボランティア貯金関係

(一) 事実関係

(1) 原告樋口関係

(人証略)の結果によれば、以下の事実が認められる。

平成三年一月一八日午後四時二五分ころ、北住課長は、ボランティア貯金に加入していなかった原告樋口を会議室に呼び出し、同人に対し、「ボランティア貯金を利用できないような職員は郵政職員と違う。職員辞めろ。」などと言い向けた。

同年二月六日、河合課長及び北住課長らは、原告樋口を会議室に呼び出し、同人が、同じ郵政職員である同人の妻がボランティア貯金に加入したので一家で一口すればいいと思い、ボランティア貯金に加入したと言ったことを取り上げ、同人に対し、北住課長において、何度も「嘘つき」呼ばわりをし、その後、さらに、保険課事務室に戻った同人を河合課長が追いかけてきて、「樋口耕一の嘘つき。」「ネームプレートを外しなさい。」などと言いながらそのネームプレートに触り、そして、同日、原告樋口が退庁する際にも、同人に対し、河合課長や北住課長が、「樋口耕一の嘘つき。」と連呼したりした。

(2) 原告井口関係

(証拠・人証略)の結果によれば、以下の事実が認められる。

平成三年一月二九日午前八時二〇分ころ、河合課長は、ボランティア貯金に加入していない原告井口に対し、「ボランティア貯金なんでやらんのや。やらん理由は何や。どこから言われとるのか。頭がおかしいんとちがうか。」などと言った。

同月三〇日、河合課長は、原告井口に対し、「郵便は置いとけ。」と言って、同人が配達区分作業をしている郵便物を取り上げ、「こっち向け。」と言って同人の両肩を持って同課長の方に向かせた上、「ボランティア貯金なんで入らんのか。」などと言った。

同月三一日、河合課長は、原告井口がボランティア貯金に加入しないことについて、同人に対し、「郵便局の商品扱わんもんは職員とちゃう。おってもらわんでもええ。頭おかしいんちゃうか。」などと言い、北住課長も、「おまえわしより大きいやないか。大きい体をして何を考えとんのや。」などと言った。

(3) 原告舘関係

原告舘本人尋問の結果によれば、平成三年一月一一日午後五時三〇分ころ、当時原告舘はボランティア貯金に加入していなかったところ、河合課長と北住課長が作業中の原告舘のところへ来て、河合課長が原告舘のあごを持って立たせて北住課長の方に顔を向けさせ、北住課長が、「郵政省の施策としてやっているボランティア貯金を役職者やったらするのが当たり前や。できやんのやったら役職者辞めよ。職員も辞めたらどうや。」などと言ったことが認められる。

また、(証拠・人証略)によれば、平成三年一月一八日午後一時四〇分ころ、北住課長は、原告舘に対し、「ボランティアどう。趣旨わかっとる?こっちむけ。横向かんと。しゃべらんのが総務主任か。それで総務主任ようつとまるな。降りるか。代わりはいくらでもおる。降りよ。そのほうがええぞ。おまえさんのために職場が暗くなっとるんやでボランティアに入って明るくしたらどうや。腹立たん、これだけ言われて。腹立ったらなんとか言ってみ。黙っとったらわからへんやないか。ええ加減にしとけ。情けない。それでよう総務主任つとまっとるな。降りよ。もう、毎回、毎回、同じこと言わして。」などと言ったことが認められる。

(二) 以上の事実によれば、ボランティア貯金が郵政省の重要な事業施策であって、管理職はその普及促進に努めることが要請され、また、原告らがボランティア貯金に加入しないことについて十分な合理的説明をしなかった(〈人証略〉)としても、河合課長や北住課長らの原告らに対する右の各言動は、ボランティア貯金についてその制度趣旨を説明し、加入の勧奨をするといった行為の程度を明らかに逸脱した、原告らに対する不当な侮辱や嫌がらせと認めることができる。

なお、原告らが、平成三年二月ころボランティア貯金に加入したこと(当事者間に争いがない。)をもって、従前原告らが、管理者への反発のみを目的としてボランティア貯金に加入しなかったものとは推測することができない。

4  挨拶関係

(一) 事実関係

(1) 平成二年九月一八日の事実

(証拠・人証略)の結果によれば、河合課長は、同日午前八時一八分ころから二八分ころまでの間、郵便課外務員事務室において、原告舘に対し、「自分の意思で挨拶をしないのか、他の圧力があって挨拶しんのか、どっちなんや。そんで人間かおめえ。思考力あんのか。肝心な会話はできんやったら、まあ、辞めよ、おめえ。辞めなさい、早く。役職降りる前にもう職員辞めやええがな。今いくらでも職あるで。すぐ行け、早よ。局出てきゃあ。もう今日行けやいいが。もうおらんでもいいが、ここに。別にあんた自分の嫌いなところでやな、おる必要ないがや、そんなもん。自分のその年齢で他が使ってくれると思ったら大間違いやぞ。上司から言われて返事もせんようなそんな職員使う必要ないわ。」などと言ったことが認められる。

(2) 平成二年九月一九日の事実

(証拠・人証略)の結果によれば、河合課長は、同日午前八時一八分ころから二八分ころまでの間、郵便課外務員事務室において、原告舘に対し、何度も「舘君、おはよう。」と呼びかけた上、「総務主任を降りなさい。挨拶できんような職員はいらんわ、郵政省は。郵政省辞めなさいよ、あんた。おる必要ないわ。もう辞めなさい。まあ辞めなさい、潔く。もちろんあんたみたいな人を使うところはないやろけどね。辞めや、辞めや、はや、はや郵政省辞めや、あんた。今日けえってくだわ、もう。退職願い書いて。退職しなさい。もうおってもらわんでもええ。俺、紙持って来てやるわ。四〇過ぎたええ男が挨拶もできんようなことでどうするだ、おめえ。」などと、繰り返し退職するよう求める侮辱的言辞を言い向けたことが認められる。

(3) 平成二年一〇月三日の事実

(証拠・人証略)の結果によれば、河合課長は、同日午前八時二〇分ころから三〇分ころまでの間、郵便課外務員事務室において、原告舘に対し、何度も「舘仁君、おはよう。」などと呼びかけた上、「何回言わしたらおめえ返事するんや。名前まで言っとるがや。それでもおめえ答えれへんがや。どうなっとるんや、おめえは。君の感覚はどうなっとるんや。君は館君と言うだけではあかへんで、名前まで言ったるわ。舘仁君。おーい、どうなんや。郵政省辞めや、おまえ、ほんとに。辞めなさい、直ぐ。その方がええに君のためにも。挨拶できんやったら、いつでもええで、辞めや。役職降りるだけではいかんわ、辞めや、なあ。直ぐ辞めなさい、郵政省、ええで。即刻辞めや、ええで。今日辞めてもええんやで。」などと言ったことが認められる。

(4) 平成二年一〇月六日の事実

(証拠・人証略)の結果によれば、河合課長は、同日午前八時二〇分ころから三〇分ころまでの間、郵便課外務員事務室において、原告舘に対し、何度も「舘君、おはよう。」などと呼びかけ、「返事せんか。挨拶は。くだらん話ようけするがや、おめえ。どっち向いとる。こっち向かんか。おめえ。キンキンの声でおまあ話するがや。挨拶もできんのか。返事もできんのか。それでよう総務主任といっておれるな。それでよう郵政省の職員といっておれるなあ。」などと言い、お客さんから原告舘の名前を出して同人は挨拶をしないという投書が来ていると虚偽の事実を述べるなどして原告舘を非難したことが認められる。

(二) そこで検討するに、原告舘が挨拶を求める河合課長ら管理職に対して、これを無視し、あるいは挨拶を返さなかったことは、上司から注意・指導を受けるところであるとしても、河合課長による右認定の言辞は、挨拶をしない部下に対する上司の注意・指導として社会通念上許される範囲を越えた侮辱的なもので、相手の人格を傷つけるものといわざるを得ない。

そして、このことは、河合課長が、原告舘に対して、真意で降格や退職を求めたのか否かにかかわりないところである。

5  ロッカー検査関係

(人証略)の結果によれば、河合課長は、平成三年五月二二日、保険課外務員のロッカーの検査を行ない、原告樋口のロッカーの検査の際には、置いてあった歯磨粉の箱の中から歯ブラシと歯磨粉のチューブを取り出したり、畳んであったカッターシャツを取り出して広げ、元通り畳み直さずに戻すなどし、さらに、ロッカーの中にあった小銭やソフトボールを見つけて、それが局のものではないかと言うなどし、他の職員のロッカーの検査より若干時間がかかったことが認められる。

しかしながら、ロッカー検査が、部内犯罪の発生防止という正当な目的を有し、ロッカーの使用者である原告樋口が検査に立ち会い、同人も検査をすること自体は黙示的にせよ承諾していたと認められることなどに照らすと、右検査の態様をもって、河合課長が、検査を口実にしてその権限を濫用し、あるいは許容される検査の程度を越えて検査を行ない、原告樋口に対して嫌がらせを行なったとまでは認めることができない。

二  被告の責任及び損害

以上によれば、河合課長及び北住課長らを主とする四日市北郵便局の管理職は、その職務を行なうについて、原告らに対し、管理職としての指導・監督上あるべき程度を逸脱した、粗野あるいは低俗な言動をもってする威迫的、侮辱的、挑発的な行為をあえてしたものと認められるところ、これが、原告らが、郵政省の策定する各種重要施策につき協力的でなく、これを推進しようとする管理職に対して、時に反抗しあるいは無視するなどの対応をとったことに由来する点があったとしても、なお、原告らに対して、不当にその人格を傷つけ、精神的苦痛を及ぼしたものといわざるを得ない。

そこで、前記認定の事実その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、原告らが右精神的苦痛を慰謝するため、国家賠償法一条一項に基づき被告に賠償を求め得る慰謝料及び本訴弁護士費用は、原告ら各人につきそれぞれ、慰謝料二〇万円、弁護士費用五万円と認めるのが相当である。

なお、仮執行宣言については、相当でないからこれを付さないこととする。

(裁判長裁判官 大西秀雄 裁判官 清水節 裁判官上山雅也は、退官につき、署名捺印することができない。裁判長裁判官 大西秀雄)

〈別紙〉 当事者目録

原告 樋口耕一

原告 井口正美

原告 舘仁

右三名訴訟代理人弁護士 松葉謙三

同 塚越正光

同 中谷雄二

同 福井悦子

同 渥美雅康

同 荻原剛

同 石坂俊雄

同 村田正人

同 伊藤誠基

同 福井正明

同 花田啓一

同 安藤巌

同 水野幹男

同 長谷川一裕

同 石川智太郎

同 加藤洪太郎

同 前田義博

同 若松英成

同 佐久間信司

同 萩原典子

同 鍵谷恒夫

同 浅井淳郎

同 山本勉

同 石塚徹

同 杉浦龍至

同 森山文昭

同 松本篤周

同 加藤美代

同 杉浦豊

同 大矢和徳

同 田原裕之

同 竹内浩史

被告 国

右代表者法務大臣 前田勲男

右指定代理人 泉良治

同 中湖正道

同 井上治夫

同 佐野武人

同 小林義信

同 片岡鉄彦

同 川邊武

同 福本誠

同 中本薫

同 尾崎秀人

同 安江直樹

同 山田喜世勝

同 小菅富雄

同 井田直希

同 阿部裕人

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